福井の司法書士 永田司法書士事務所 相続・遺言・不動産登記・商業登記

資料室

住民票

夫名義で、土地を買おうと契約しました。
決済日に、住民票を持参するように言われていますが、夫だけの住民票でよいでしょうか?
コンビニで住民票を取得したときは、夫を含め家族全員の住民票が数通プリントされました。

リフォーム

父所有の自宅を、同居している私長男が、リフォームを計画しています。
改築資金は、銀行から借り入れる予定です。
登記手続きにどのようなことを注意すればよいのでしょうか。

反貧困キャラバン2013福井実行委員会

県社 共同募金008

※画像をクリックすると拡大表示されます。

講演会ではありませんが、表記発表を行いました。


反貧困キャラバン2013福井実行委員会の代表永田です。

{団体の概要}
反貧困キャラバン2013福井実行委員会とは、「地域から餓死・孤独死を生まないために、人間らしい生活と、労働の保障を求めて、つながろう!」をスローガンに、貧困問題の解決に取り組む弁護士、司法書士や社会福祉士、自死遺族の会、労働者、医療関係者などの福井県内の民間人が呼び掛けて結成された、「貧困問題の解決を目指した啓発及び困窮者支援事業を行うボランティア団体」です。

昨年度も、この活動を実施しましたが、本年度は、4月29日の第1回実行委員会開催から7月3日の実行委員会まで、すでに6回の委員会を開催しています。このあとも、毎月実行委員会を開催する予定です。実行委員会には、毎回いろんな団体から約10人が参加しています。
去る6月29日には、プレ企画「命の最終ライン 生活保護の切り捨てを許さない!」を実施しています。

{事業の必要性と実施方法}
今社会全体に貧困が蔓延しています。福井県は日本一幸せな県と言われています。しかし、実態は、不況で職に就けない人、学校に行けない人、生まれつきの障害を持った人、慢性的病気をもった人、明日の食事がない人、一人暮らしのお世話をして疲れきっている人等たくさんの困窮者がおられます。この人たちは、自分の責任というより生まれつき、また社会問題により貧困となった人も多くおられます。
内閣府まとめによると、福井県内の昨年の自殺者数は、前年比12人増の166人でした。年代別でみると、60代が前年比5人増しの30人、70代が同9人増しの33人で高齢者が増えています。

貧困問題は、悩んでいる人一人の問題ではなく社会全体の問題です。
そして、困窮者は、自分たちの困窮状態を自ら社会に訴えることができないのです。
制度上でも、例えば、今年の8月から生活保護基準の大幅な引き下げが行われます。

まず私たち実行委員会は、貧困の実態を、当事者から生の声を聞いて、貧困問題を私たちの共通認識とする必要があると思います。
それには、まず声なき声を聞くことが大事です。ここに声なき人がいると気付き、声をかける、話を聞く、一緒に歩く。相談できる人を探し出せればよい。そして、世の中の人々に貧困問題がどのように私たちの個々の個人の尊厳にかかわるかを訴えます。
具体的は、当事者の発言を聞く講演会を開催します。講演に先立ち、反貧困キャラバン演奏を行います。
また、貧困者に対し、医療関係者、法律家、自死遺族の会等が相談に応じます。心の緊急避難所を案内する、さえられる人を紹介するが目標です。
9月29日から10月2日には、反貧困をテーマに全国を巡る反貧困キャラバンカーを福井県内全域で走らせ、貧困問題を訴えます。

{その事業の予想される効果や到達目標}
この活動により、貧困問題を抱える当事者が孤立や疎外を免れ、またその支援者のネットワークが形成されます。

薪の炎は、1本では勢いよく燃えません。薪は何本もくべると大きいな炎になります。
まず、われわれ一人一人が貧困問題について燃えることです。
そして、一本一本火をつける。大きな輪を作りたいと思います。

この活動は、次年度も実施する予定です。貧困問題は、沈静化するどころか、ますます格差が広がり大きな社会問題となるでしょう。


本人確認・意思確認

平成25年3月6日午後2時50分~4時30分

○○会業務研修会

「本人確認と意思確認」

                         司法書士 永田廣次
                    
問題

「宅地建物取引業の佐藤さんは、昔から付き合いのある田中一郎さんから、次のような依頼を受けました。
 福井市順化2丁目の土地を仲介人として売却してほしい。
この土地は、亡父田中正さんと母田中春代さん及び田中一郎さんの3人共有ですが、亡父田中正は3年前に死亡しました。しかし、未だ相続登記はできていません。母田中春代さんは、5年ほど前までこの土地の上に住宅を建てて住んでいましたが、現在建物も解体し、施設に入居しています。田中一郎さんが施設に行っても、母田中春代さんは、長男の田中一郎さんが来たことはどうにかわかりますが、自分の歳も言えません。また、3人共有の権利証は見当たりませんし、買主の予定である鈴木二郎さんは、仕事が忙しく決済に出れないようです。どのような手続きを踏んだらいいでしょうか?」


第1 成年後見制度

この問題はまず成年後見制度の理解が必要です。
福井県内には約4万人の成年後見対象者がおられます。
平成12年以降1700件の申立てがあった。

Q1 「亡田中正さんの相続登記が終了していません。相続人である母田中春代さんは、判断能力がないようです。どのように相続登記を行ったらよいでしょうか?」

1 意思能力のない法律行為は無効である。本件では遺言書がないとして、通常の遺産分割協議を行うとする。
  亡田中正さんの法定相続人は、春代さんと正さんです。相続人である母田中春代さんが遺産分割協議に関わるには、成年後見制度を利用しなければならない。


2 成年後見制度の種類

法定後見制度
  成年後見類型
  保佐類型
  補助類型
任意後見制度


3 申立等

4親等以内の親族に申立権がある。申立は本人の同意不用。

医師の診断書を添付
家庭裁判所は、本人の能力につき原則鑑定する

成年後見人には候補者が選任されることが多い
     
審判は、家族間に問題なければ早いと約1ヶ月で行われる。
家族間で争いがあると第3者後見(弁護士・司法書士・社会福祉士等)となる。
成年後見人等に選任されると登記される。
登記事項証明書は、審判が確定するのに2週間、その後裁判所の嘱託登記が行われさらに約2週間要します。

成年後見人に選任されると、本人の財産処分権限が与えられる
 成年後見人等が本人の財産を処分してもそのお金は本人のお金です。
  本人のお金を後見人が自分のために使えば横領
本人が亡くなれば、相続問題
司法書士による後見人の申立て費用は通常10万円ぐらいであろう。
  但し、鑑定費用は別途6万ほどかかる。

  被後見人田中春代さんに後見人田中一郎(長男)さんが選任されました。


4 遺産分割協議と特別代理人
  母田中春代さんの後見人に、第3者の例えば司法書士が選任されれば問題ない。司法書士と、田中一郎さんが遺産分割協議すれば足りる。
  しかし、通常、親族・長男である田中一郎さんが母田中春代さんの後見人に選任される。そうすると、遺産分割協議において、田中一郎さんは自分の相続人としての立場と母田中春代さんの成年後見人としての立場とで利害が反することになり、いわゆる特別利害関係人として遺産分割協議に関われない。その場合家庭裁判所に、遺産分割協議のための田中春代さんの特別代理人を選任する手続きが必要となる。
  特別代理人は、利害のない親族でもよく、通常候補者を特別代理人選任申立書に記載する。
  但し、事前に候補者の承諾を得ておく必要がある。
  特別代理人選任申立書には、遺産分割協議の案を添付する。その中味において被後見人である田中春代さんの持分をゼロにするのは難しい。相続分に見合う代わりの預金を与えるつまり代償分割協議をすることが必要である。

  司法書士による特別代理人選任申立ては、通常3万円ほどである。

  遺産分割協議が整い、相続登記が完了し、亡父田中正持分は、田中一郎さんが相続取得しました。


  5 居住用不動産売却と家庭裁判所の許可
 民法859条の3は「成年後見人は、被後見人に代わって、その居住用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには家庭裁判所の許可を得なければならない。」と定めている。
 これは本人の身上監護に影響するから許可とした。
この許可を得ないでした後見人の処分行為は無効となる。

居住用不動産とは、
① 本人が生活の本拠として現に居住している建物またはその敷地
② 現在本人は居住していないが、過去に本人が生活の本拠とした実態 のある建物またはその敷地
③ 将来本人の居住用として利用する予定のある建物・敷地
 そして、本人の居住の有無は、本人の生活の実態を考慮(事実上長く居住していた)を考慮に入れ実体的に判断する。
本人が施設に入居し、住民票を移転していても、その建物・土地に住みたい意思や願望を持っていれば居住用に該当する。

   手続きには、約2週間を要する。

居住用不動産売却許可の審判が得られました。

  6 本人確認情報
  本件では、3人名義の権利証がない。権利証のない事例は、共有名義、家庭内不和の場合が多い。
  亡田中正名義は今回の相続登記により、田中一郎への田中正持分全部移転登記完了による登記識別情報がある。
    
田中春代持分と田中一郎持分につき、司法書士が本人確認情報を作成する。その中味は、なぜ権利証がないのか、この不動産取得時の経過、現在の様子等、取得時の売買契約書や固定資産評価証明書、運転免許証等本人確認のための書面等を基に本人に面談して作成する。

その際、写真付きでない公的証明書は、2通必要です。
    
  時間と費用がかかります。


第2 本人確認と意思確認

  ようやく決済の準備が整いました。
  
1 定義(司法書士用)

  本人確認とは、司法書士が、業務を行なうに際して、依頼者及びその代理人等の公的証明等により本人特定事項を確認して本人の実在性と書類との同一性の確認をすること並びに依頼者が依頼された事務の適格な当事者であることの確認をすることをいいます。
  仮名取引やなりすまし取引の防止に資する

  意思確認とは、依頼内容意思の確認と司法書士への委任意思を確認することをいいます。意思能力・事実聴取・手続き選択・手続き依頼の意思を確認します。(犯罪収益移転防止法にはない)

本人確認、意思確認により、紛争予防(法律的有効性の確保)と委任契約が成立する。

本件では買主の鈴木二郎さんが仕事が忙しく、決済に出て来れない。
  代わりに、鈴木二郎さんの妻が決済に来るという。司法書士はどうするか。


Q1 「宅地取引決済に際して、本人確認・意思確認は売主とともに買主についても必要ですか? その際、何を持参していただけばいいでしょうか?」

買主についても、本人確認・意思確認が必要です。
住民票、認印の他本人確認書類が必要です。
本人確認書類としては、有効期限内の公的証明書、例えば、運転免許証、住民基本台帳カード、パスポート等の提示を求められています。平成25年4月1日から犯罪収益移転防止法の改正により、運転経歴証明書、在留カードや特別永住者証明書も規定されました。
その際、免許証のコピーをいただきます。本来原本の提示でよいのです が、運転免許証の内容を記録するには時間がかかり又誤りが生ずるので、免許証のコピーをいただきます。ご協力ください。

決済当日仕事が忙しいため出頭できない場合は、事前に司法書士が本人 確認・意思確認することでもよいです。


Q2 「妻が、依頼者である夫所有の宅地売買決済に出頭しました。決済できるでしょうか?」

  できる場合と出来ない場合があります。

  本人確認は、夫と妻に必要です。
夫の本人確認をどのようにするかですが、一般的には、事前に司法書 士が夫と面談し免許証原本の提示とそのコピーをいただいておくのが通常の方法です。
又、例外として、夫については、あらかじめ夫の免許証のコピーをい  ただき、その住所へ転送不要扱いの書留郵便により委任状を送付しておき、この委任状(実印押捺)と印鑑証明書を決済当日妻から収得する方法もあります。
この例外の場合、免許証の住所が実際居住しているところと異なれば、 郵便配達されませんから決済できません。

 意思確認は、妻又は夫と妻。依頼者である夫の意思を疑うに足りる事情があるときは夫の意思確認をしなければならない。
  

司法書士としての職責上から言えば、依頼の内容及び意思確認も必要 であり、妻が夫の代理人として日常家事債務でない不動産取引について登記手続きを代行することは特別授権が必要です。司法書士は、夫から妻への特別授権を認定できないので、夫と面談し夫の意思確認をすることが原則です。最低限夫に電話をかけ意思を確認することが必要です。そして、妻が夫のために取引の任にあたっていると認めた理由を記録しなければなりません。

これらができないときは、決済できません。


Q3 「売主さんは、高齢のため免許証を持っていません。何を決済の場に持参すればよいでしょうか?」

    権利証、印鑑証明書、実印、本人確認書類
本人確認書類としては、写真付の公的証明書が理想です。パスポートが あればよいですが、なければ住民基本台帳カードを市町の窓口であらためてつくられるのもいいです。
写真付以外のものでは、官公庁の発行する公的証明書、例えば国民後期高齢者医療保険証、介護保険証、国民年金手帳等を持参してください。但し、いずれか2点以上を持参していただくとありがたいです。

 

第3 必要書類

本件において、関係者は何を用意すればよいのでしょうか?

 1 成年後見申立

  ① 申立人の戸籍謄本
    申立て人の運転免許証

② 本人の戸籍謄本
    本人の住民票or戸籍の附票
    本人の登記事項証明書(登記されていないことの証明書)
    診断書と診断書の附票
    (愛護手帳(判定1・2)療育手帳(判定A)の交付があればそのコピーの提出で足りる。)
    不動産全部事項証明書
    預貯金通帳のコピー(証書・保険証書)
    負債資料のコピー
    本人の収支についての資料

  ③ 成年後見人候補者の本籍記載ある住民票or戸籍の附票
    成年後見候補者の身分証明書
      

 2 特別代理人申立

   申立人(後見人)の戸籍謄本(提出済みの戸籍謄本と変更なければ不要)
   被後見人の戸籍謄本(提出済みの戸籍謄本と変更なければ不要)
   特別代理人候補者戸籍謄本
   特別代理人候補者住民票
   (特別代理人候補者の承諾書・後見登記がないことの証明・身分証明書)
   被相続人の除籍謄本
   遺産分割協議案
   不動産登記事項証明書


 3 相続登記

   遺産分割協議書
   後見人登記事項証明書
   特別代理人選任審判書
   被相続人の15歳ぐらいからの除籍謄本
   各相続人の戸籍抄本
   各相続人の本籍記載ある住民票
   各相続人の印鑑証明書
   相続登記申請人の運転免許証


 4 居住用不動産処分許可申立
   
   申立人(後見人)の住民票(本籍記載)(提出済みの書面と変更なければ不要)
   本人の住民票(本籍記載)(提出済みの書面と変更なければ不要)
   処分する不動産の登記事項証明書
   売買契約書
   路線価図
   評価証明書
固定資産税・都市計画税 納税通知書
   
 
 5 売買移転登記(決済) 

① 売主田中一郎の必要書面
   田中一郎名義の相続による登記識別情報
   田中一郎の本人確認情報
(田中一郎の運転免許証(有効期限内)、本物件の課税証明書、本物件の売買契約書)
   田中一郎の印鑑証明書(発行後3ケ月以内)
   田中一郎の実印

  ② 売主田中春代の必要書類
田中春代の本人確認情報(田中一郎の運転免許証、課税証明書、従前売買契約書等)
   田中春代の成年後見登記事項証明書
   田中一郎の成年後見登記事項証明書
   田中一郎の運転免許証
   田中一郎の印鑑証明書
   居住用不動産売却許可書

  ③ その他(売主)
田中春代の住所移転があれば、前住所記載のある住民票
   
   売買契約書と領収書
   登記原因証明書や委任状は司法委書士が持参する。

  ④ 買主の必要書面
   鈴木二郎の住民票
   鈴木二郎の運転免許証
   鈴木二郎の妻の運転免許証
   鈴木二郎の認め印

賃貸住宅トラブルの解決に向けて

平成23年11月22日(火)
               
賃貸住宅トラブルの解決に向けて

                     司法書士 永田廣次


前提
甲(個人)は、乙(個人)から乙所有のAマンションを居住目的で賃借した。



「賃貸住宅トラブルの発生原因はどこにあるのでしょうか?」
     

昔から、衣食住といわれ、住は生活の基本の柱となる。
民間賃貸住宅は、住宅ストックの約3割を占めており、国民の住生活の安定の確保及び向上促進のために極めて重要である。
これまでの住宅政策が、持ち家政策が重視され、賃貸借の環境については2の次とされてきた。そして、住宅金融公庫が廃止され民間市場が拡大し、公営住宅の縮小も見られた。
民間賃貸住宅を巡っては、従来から様々な問題が発生している。相談内容は、敷金の返還、原状回復、管理業務を巡るものが多い。
法律上は、賃貸住宅トラブルの原因は、特約の効力が最も重要なポイントである。
加えて、近時、家賃債務保証業務に関連して、滞納・明け渡しを巡るトラブルも増加している。
①契約書は賃貸人側で有利に作成する。しかも内容が抽象的であるものが多い。また、特約条項が一般条項に入れられており認識しにくい。
②賃借人は、契約内容をよく理解しないで署名捺印する。
③少額が争いとなる。
④賃借人の泣き寝入り体質がある。
⑤法的解決に時間と費用がかかる。
⑥賃貸人の素人経営と高齢者化と業者任せ。
 ⑦不況による損失の転嫁。
⑧入退時の立会い書面や原状確認。



第1 賃貸借契約の締結


1 「甲の長男が東京の大学に合格しました。甲は、長男のために乙のAマンションを借りるに当たって、保証人をつけるか又は家賃保証会社と契約するよう言われました。何か問題はないでしょうか?」


アパート、マンションなどの賃貸借契約を結ぶ際、一般に、入居者の債務を担保するため、連帯保証人を立てるよう求められる。しかしながら、家族関係の希薄化、自立志向の高まり等により保証人を頼みにくい、あるいは頼みたくないという入居希望者がいる。
このため、従来からの市場慣行である連帯保証人制度に替わるものとして、入居者の家賃債務を一時的に肩代わりすることなどを「家賃債務保証サービス」として提供する家賃債務保証会社の活用が図られるようになってきている。
入居者が一定の保証料を家賃債務保証会社に支払うことにより、入居者が万一家賃を滞納した場合、家賃債務保証会社が入居者に代わって一時的に家賃を立て替えて家主に支払う。なお、入居者は、後日家賃債務保証会社から立て替えた金額を求償される。

しかし、現在、家賃保証債務保証業務を規制する法律等は存在していない。
又、賃貸住宅の管理会社の管理業務についても、これを規制する法律等も存在していない。
そして、家賃保証債務保証会社に限らず、賃貸住宅の管理会社や賃貸人が違法又は不適切な行為を行っている事例も発生している。
具体的には、未明までの支払いの督促を受けた事案や、賃貸住宅の部屋のカギを賃借人に無断で取り替え部屋に入ることができなくなった事案、部屋の中の荷物を勝手に搬出するといった事案が発生している。
さらには、家賃債務保証会社に関しては、経営が破綻し、賃借人や賃貸人に不測の損害をもたらす事例もある。

        
2 「甲は乙のAマンションを借りるに当たって、保険に入るよう仲介業者から言われました。保険に加入しなければならないでしょうか?」


賃借紛争の円満な解決に対応できるよう保険でカバーする仕組みも重要である。
しかし、仲介業者が損害保険の代理店をしている場合も多く、さらに賃貸借契約に保険加入義務があると説明されるケースもある。
賃借人は何の目的で保険に入るかを検討する必要がある。無駄な保険に加入する必要はない。
保険は、事故、賃借人の損害賠償責任に対応するためである。最も多い事故は、賃借人の水漏れ事故である。しかし、賃貸人は、賃借人の事故により物件の一部が滅失毀損した場合の補償のために保険をかけることを希望する。

保険の内容を見てみると
①火災保険
 火災保険には賃借人に加入する義務はない。火災保険は、通常、建物全部について、自己所有者である賃貸人が加入しており、仮に、同一物件で重複している火災保険は、火事になっても重複して保険金が下りない。無駄である。
②借家人賠償保険
 修繕費や賃借人の過失で出火させてしまった場合の家主への賠償金になる。保険金額は1000万円もあれば充分である。
③個人賠償責任保険
賃借人の過失で水漏れや物を落下させて近隣の賠償が必要になった場合の保険である。
④家財保険
火災や盗難で賃借人の家財や貴金属に被害があった場合の保険である。

実際には、②借家人賠償保険に加入すれば事足りるが、保険会社によって商品は種々あり、他の保険とセットになっている場合が多い。
なお、修理費用担保特約(契約に基づいて負担する小修理費用を保険)も組み合わせるとよい。

契約書中で義務づけをしている場合は、保険の加入義務が発生する。
しかし、仲介業者に強制される保険に加入しなくてよい。もし、強制されると、抱き合わせ販売の義務付けによる拘束となり独禁法に抵触する(19条 一般指定10項)。


第2 賃貸借の効力

[修繕義務・必要費]


3 「Aマンションが雨漏りします。また、ベランダの手すりが壊れています。壁のクロスも傷みました。しかし、契約書には、『通常の修理費は賃借人が負担する』と記載されています。甲は家主である乙にこれらの修繕を請求できるでしょうか?」


 原則
 賃貸人には、使用収益させる義務、修繕義務(民606条)がある。
①原状維持・回復(雨漏り 屋根修理)
②通常の使用収益できる状態で保存する行為(排水管)
が、賃貸人の義務である。

 例外
但し、通常の修理費(小修繕)は賃借人が負担する特約は有効である(民法608条は任意規定)。
 特約により、畳の表替え、障子ふすまの張り替え、電球・蛍光灯の取り換え等は、賃貸人の責任が免除される。

 特約の制限
 何処までが特約の範疇(小修繕)か?
 ベランダの修理や壁のクロス、床のカーペットは相当の費用がかかり小修繕でない。
 さらに、建物の基本的な構造に影響する修繕は大修繕で、特約があっても家主が負担するべきものである(判例)。

 しかし、さらに「賃貸人は、何処までも修繕する義務があるか?」
修繕が可能でなければならない。
 修繕が可能かどうかは、物理的技術的ばかりではなく、経済的な観点からも判断するべきで、修繕に新築と変わらないような費用を要するときは経済的に修繕不能となる。

 その結果、使用できない部分が一部であれば、賃借人は賃料減額請求権がある。
 又、建物を賃借した目的が達成できないならば、契約の解除ができる(611条類推)。

 「仮に、賃借人甲が、ベランダを修理したら、法律関係はどうなるか?」
甲は直ちに必要費の償還を請求できる(608条)。翌月の家賃と相殺できる。必要費の償還請求権は10年の消滅時効にかかる。
又、契約が終了してから1年を経過すると請求できなくなる(621条・600条)。


[有益費償還請求権]

4 「甲は、クロスの張り替えを行いました。契約書には、有益費は借家人の負担とするとの特約があります。甲は乙に、クロスの張り替え費用を請求できますか?」


まずクロス張り替えが有益費に該当するかが問題である。
有益行為というためには、目的物を通常利用する上で価値が客観的に増加したと評価されることが必要である。又、建物に符合することも要件である。
賃借人の趣味でクロスを張り替えることはあたらない。
 
 造作も有益行為も経済的には賃借人の投下資本の回収という点で共通問題があるが、有益費償還請求権放棄の特約は有効であるとするのが判例の立場である。


[造作買取請求権]

5 「甲は、今から4年前に乙からAマンションを賃借し、乙の許可を得て当時3万円をかけて吊り戸棚を設置しました。今回契約を終了するに当たり、この吊り戸棚の買い取りを請求できますか?」


借地借家法33条(旧借家法5条)は、借家契約終了時に、借家人が家主の同意を得て建物に付加した造作を、時価で買い取ることを請求できると規定する。

造作とされるには、賃借人の所有に属し、建物から取り外したら役にたたなくなるもので、客観的に役立つものをいう。
例) 畳、建具、雨戸、吊戸棚、クーラー、システムキッチン

しかし、平成4年8月施行の借地借家法3条、37条は、特約により造作買取請求権を放棄することができるようにした。
施行前の特約は効力がないが、施行後に改めて特約を結べば有効である。
 

[賃料減額請求権]

6 「甲は、今から10年前に乙からAマンションを月5万円で借りました。その間、家賃は、値上げもありませんでしたが、近時甲の生活も苦しいので、家賃の値下げをお願いしようと思います。値下げ請求はできるのでしょうか?」


一定の事情変更があれば、賃借人は、家賃の減額請求権が認められる(借地借家法32条)。
①土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減
②土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動
③近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となった

②の文言は新法によって新たに加えられた。
その他の経済事情の変動とは、物価や国民所得や労働者の平均賃金の変動をいう。

不減額特約(一定期間賃料を減額しない特約)は無効である。


 「家賃の減額手続きはどのようなものですか?」

減額請求(3万円)を相手方に伝えたときから減額の効力が生ずる。
家主と話し合いがまとまらなければ、新法により調停前置主義となった。

協議が整わなければ、家主は、相当と認める額(4万円)の賃料を請求できる。
減額を正当とする調停や裁判が確定した時において、借家人がすでに支払った額(4万円)が正当とされた額(3万5千円)を超えるときは、建物賃貸人は、その超過額(5千円)に年1割による受領時から利息を付して返還しなければならない。


第3 敷金返還義務および原状回復義務

[クロスの交換特約・畳の表替え特約・ハウスクリーニング特約等と賃借人の費用負担]

7 「甲は、2年前にAマンションを家賃5万円、敷金3ケ月分で入居しました。
今回引っ越すことになったので、契約書を改めてみると、クロスの交換特約・畳の表替え特約・ハウスクリーニング特約がありました。このような特約は有効で、敷金から控除されてもしかたないでしょうか?」



賃借人は原状回復義務を負う。しかし、原状回復義務とは、賃借物を返還する際には、賃借人が設置したものを取り除いて返還するということであり、新品にして返す必要はない。契約時の原状に復旧することでもない。
但し、賃借人の善管注意義務違反または許される通常の使用を超える使用によって毀損・汚損が発生した場合は、その修繕費用は、賃借人の負担と考えられる。
敷金からは、賃借人の一切の債務が控除される。しかし、特約があった場合でも文言どおり敷金から控除されるとは限らない。
通常の使用によって必然的に伴う損耗、汚損等、時間の経過によって生じる自然的な劣化、損傷については、特約があっても原則敷金から控除できない。

①自然損耗はこの意味での損傷に当たらないので、返還時の状態で返還すればよい。クロスの「自然色落ち」や冷蔵庫設置場所の「電気ヤケ跡」は賃借人として許される通常の使用によって生じる損耗なので、特約があっても控除できない。
通常損傷分の原状回復費用は、減価償却費として一般的に賃料に含まれている。
②畳の表替特約は、小修繕を賃借人負担で行う特約である。
しかし、通常の使用方法による自然損傷は、賃貸人の負担であり、特約に合理的理由があり特約内容を充分に認識している場合に例外として許される。
それゆえ、入居後短期間で退去する場合や、賃借人が自分で畳入れ替えを行って間もない時期に退去した場合も、敷金から控除できない。
③ハウスクリーニングは、室内を清掃消毒し、入居前の状態に近い状態に回復する作業をいう。トイレの黄バミや風呂場台所の消毒清掃等特殊な洗浄剤や技術を要し一般的には困難である。
これは、次の賃借人を確保するためという側面が強く、賃貸人側の事情により行うもので、賃貸人が負担するべきである。
④カーペットを煙草で焦がしたとか子供のマジック悪戯等は、賃借人の原状回復義務があり違反すれば損害賠償の対象となる。
しかしその範囲は、広範囲に行う必要はない。カーペットの場合は当該居室、クロスの場合は当該壁面一面の張り替え工事が補修範囲である。


[敷金の当然控除特約(敷引特約)]

8 「このたびAマンションを出ることにしました。敷金をいくら返していただけるか大家の乙に聞いてみると、敷引き特約により2割は当然控除し返すと言われました。しかたないでしょうか?」


敷引特約とは、賃貸借建物の明渡しの際、当然に敷金の何割(何月分)かを控除しその残余を返還する旨の特約をいう。償却特約とも没収特約ともいう。しかし、各地域における慣行に著しい差異がある。
敷引き特約は2つの意味がある。
①通常の損傷に関する原状回復費用は、本来貸主が負担するべきだが、これを借主の負担とするという趣旨
②原状回復費用は、契約終了時に具体的に計算されるべきであるが敷き引き特約で低額化を図るという趣旨

平成23年3月24日最高裁判決
平成23年7月12日最高裁判決
「賃貸人が契約の条件の一つとしていわゆる敷引特約を定め、賃借人がこれを明確に認識した上で賃貸借契約の締結に至ったのであれば、それは賃貸人、賃借人双方の経済的合理性を有する行為と評価すべきものであるから、消費者契約である居住用建物の賃貸借建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、敷引金の額が賃料の額等に照らし高額すぎるなどの事情があれば格別、そうでない限り、これが信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものということはできない。」


第4 更新料

[法定更新と更新料]

9 「甲は、Aマンションを期間2年の約束で借りました。特に更新の合意をしないでいたところ、先日乙から更新料を支払うよう請求が来ました。支払わなければならないでしょうか?」


平成23年7月15日最高裁判決
「更新料が、一般に賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有する。
賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額すぎるなどの特段の事情がない限り、」無効とすることはできない。

特約は有効である。しかし、各地域における慣行に著しい差異がある。

更新料を支払わない場合でも、信頼関係の破壊にならなければ解除されない。

 
第5 特殊な理由による解約

10 「次にような特約による解除は有効でしょうか?
①「入居者、同居人及び関係者で精神障害者、又はそれに類似する行為が発生し、他の入居者または関係者に対して財産的、精神的迷惑をかけた時」
②「外国人で隣人とのコミュニケーションがとれる程度の日常会話ができない場合」
③「賃借人は、爬虫類、犬、猫等の動物を飼育した場合」


人権無視とか公序良俗に反する契約条項は無効である。

③のペット飼育禁止特約は、共同生活の安全衛生、秩序維持などの理由から、一般に有効である。
しかし、特約に違反しても直ちに契約が解除とはならない。違反により、近隣居住者・家主等に迷惑をかけてばかりいるなど、家主との信頼関係が破壊されたといえなければ解除できない。

特約なくとも、借主には、糞尿の後始末をおこなうなど近隣の人の平穏を侵害しないよう飼育する義務がある。このルールを守らず程度が信頼関係を破壊するほどであれば、特約なくとも契約解除できる。


第6 保証人の法律関係

11 「甲は、乙とAマンションにつき、5年ほど前に契約期間2年の賃貸借契約を締結しました。その際、丙が甲の保証人となりました。
先日、乙から丙に対し、『甲が賃料を6ケ月分滞納したので契約を解除した。そこで、滞納家賃及び明渡しまでの損害金を支払っていただきたい。さらに建物も明け渡してほしい。』と言われました。
丙は応じなければならないでしょうか?」


民法447条1項により、賃貸借契約における賃借人の保証人も滞納家賃及び明渡しまでの損害金も支払い義務を負う。

賃貸借契約が更新された場合の保証人の責任は問題がある。民法619条2項本文は、更新前の賃貸借について当事者が供与していた担保は期間の満了によって消滅すると規定する。
しかし、平成9年11月13日付最高裁判決は、借地借家法が適用される場合は、正当事由がない限り賃貸人は更新を拒絶できないため、賃借人が望む限り、更新により賃貸借関係が継続するのが通常であるから、更新後の賃貸借から生ずる債務についても保証の責めを負う趣旨で保証契約をしたと解した。

建物明け渡し債務は、一身専属的債務であり、保証人が代わって行うことはできず、保証人は建物明け渡し義務まで負わない。

12 「丙は、今後保証人を止めたいのですが、保証契約を解除できるでしょうか?」


原則として、保証人が一方的に解除することはできない。
しかし、期間が相当経過し、賃借人がしばしば賃料の支払いを怠り、賃貸人も賃貸借の解除や明け渡しを求めない場合は解除できる場合もある。
その際、甲と丙との間柄、情義的関係や利益関係も斟酌される。


第7 賃借人が破産した場合の対処法

13 「甲は生活苦のため破産することになりました。甲はこれまでどおりAマンションに住むことができるでしょうか?」


管財事件の場合、賃借人地位は、破産管財人の管理下に置かれます。破産法上は破産管財人の判断によって賃貸借契約を解除することができます(破産法53条)。しかし、賃借人は、建物の引き渡しを受け居住している。これは、賃借権を第三者に対抗できる場合にあたる。個人破産の場合、破産後も破産者の生活があるので、解除されると生活が立ち行かなくなることが明白である。破産管財人は、解除できない(破産法56条)。賃借人は、賃貸人に直接賃料を支払い居住できる。
同時廃止事件では、破産開始決定後も、引き続き賃借人の地位に基づき居住できる。
なお、従前民法621条は、賃借人が破産した場合、管財人のみならず賃貸人にも解約申し入れ権を認めていましたが改正により削除されました。


14 「賃貸借契約書に、『「賃借人が破産した時は、賃貸人は本契約を解除できる。』との特約があった場合は、解除が有効でしょうか?」


かかる特約条項があったとしても賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊するような特段の事由がない限り、解約することはできない。

賃貸人が破産した賃借人に漠然とした不安を抱いたとしても、それのみで解約を認めては、借地借家法が賃借人保護しようとした趣旨に反するばかりか、自己破産により立ち直ろうとした賃借人の経済的更生を妨げることになってしまう。


第8 賃貸住宅トラブル解決の課題

15 「賃貸住宅トラブルの未然防止や紛争の円満な解決には、どのような課題があるのでしょうか?」


国土交通省の賃貸住宅標準契約書の見直し
高齢者入居者に対する成年後見制度等の利用
原状回復やガイドラインのルールの整備
原状回復等に関する保険や保証人の検討
家賃債務保証業務等の適正化
裁判外紛争解決制度(ADR)の活用の促進
転居先の確保と支援